神戸の熱血弁護士!「向井大輔ブログ」 法的ワンポイントアドバイス

「証明する書類がないと勝てませんか?」

ご相談者の方からよく尋ねられる質問の一つです。

 

これに対する回答は大きく3つです。

①ないよりはある方が認められやすいです。
②なくても十分に交渉することはできますし、場合によっては勝てることもあります。
③ただし、何を証明するための書類なのかによります。

 

①について

どんな事でも、ちゃんと書類に残っている方がないより有利なのは当然です。
裁判所も、当事者が単に言っているだけでなくて、言っていることがこうやって書類に残っているんですね、と分かった方が、言っていることを真実だという判断を下しやすくなります。
では、その書類がない場合ですが、次のとおりです。

 

②について

しかし、どんなことでもすべて書類に残っているなんてことはありません。
例えば、騙されて取られたお金を取り戻したい、というご相談の場合に、騙された内容がすべて書類に残っているなんてことはまずあり得ません。

 

裁判で言い分を認めてもらうためには、主張(言い分)と、それを裏付ける証拠が必要です。
そこでいう証拠は、契約書などの書類が最もポピュラーですが、場合によっては「証言」という誰かの体験談、もっと言えば当事者自身の供述でも証拠になり得ます。
もちろん、その証拠の性質によって信用できるレベル(証明力)は異なりますが、形に残っているものだけが証拠ではないことは覚えておいてください。

書類に残っていなくても、実際にあった事だからこそ言えるその時の具体的な状況(日時、場所、その日の天気、どんな人が何人いて、位置関係がどうだったか、どんな会話をしたか、どんな表情だったか、何を見せられたか等々)を、矛盾なく説明できるのであれば、裁判官に信用してもらえることもあるのです。

 

裁判になれば、最後は裁判官の判断なので、裁判前にどのような結論になるかはあくまで不透明です。
可能性だけでいえば、どちらに有利とは言えるかもしれませんが、それもあくまで可能性であって、逆の結論になることだってあり得るわけです。

 

交渉時には、対立当事者が、お互いに裁判になったらどうなるかを模索しながら駆け引きを行っています。
書類がないからといってすぐに諦める必要はありません。
 

 

③について

一番重要なのは、何を証明するための書類がないのか、という点です。
ここでのポイントは「そういう場合、普通、書類が残っているでしょ!」と思うかどうかという感覚です。

 

例えば、「家を売ったけど代金を払ってくれないので請求したい」という相談を受けたときに、家の売買契約書がないとそれはほぼアウト(売ったとは認められない)でしょう。
家のような高価な売買をしたのに契約書を作らないなんてことはほぼあり得ないからです。

こういった、「あるはずのものがない」という場合は、裁判所は認めてくれないことがほとんどです。

 

では、「人に10万円を貸したけど返してくれないから請求したい」という場合はどうでしょう。
20年来の親友なら、借用書を作らずに貸してしまうこともあり得るのではないでしょうか。
他方、最近知り合った人、仕事上だけの付き合いの人なら、借用書をもらっておかないと不安があるかもしれません。

 

こういう場合は、借用書がなくても、別の何か証拠がないかを探します。

例えば、
「自分の銀行口座から10万円を出金している」
「携帯に貸し借りに関するお願いのメールが残っている」
「現金で渡したというその日に相手方の通帳に同じ金額が預け入れられている」
「相手方は借金の返済に困っていて、貸した日が返済日だった」
等々、どんなものでも証拠にはなるのです。

あとは、言い分がいかに真実であるかを、それらの証拠を繋ぎながら、理屈を構成し、法律を使って裁判官を説得するわけです。

的確に「こういう資料がないですか?」と質問できるかどうかが、弁護士の力量の分かれ目の一つでもあります。裁判を日々経験しているからこそ発想できることでもあるのです。

 



ある1つの書類がないからと言ってすぐに諦める必要は全くありません。
法律家の視点から、お困りの問題に何か1点でも光明を見い出せないかを考えてからでも遅くはないと考えます。

 

 

みなと神戸法律事務所
代表弁護士 向井 大輔