定期建物賃貸借契約締結における書面交付(最判H24.9.13)
2012/11/14
最高裁判所 平成24年9月13日 判決
【判旨】
借地借家法第38条1項所定の定期建物賃貸借の締結は、契約締結に先立って、契約書とは別個に「定期建物賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すること」について記載した書面を交付した上、その旨を説明しなければならず、それがなければ無効となる。
【事案】
・賃貸人と賃借人は「定期建物賃貸賃貸借契約書」と題する契約書をもって、
契約期間が5年と記載された賃貸借契約を締結していた。
・本契約締結に先立って、賃貸人は、賃借人に対して、
契約書の原案を送付して、賃借人予定者はその契約書を検討していた。
・本契約書以外には、特段書面を交付はしていなかった。
・賃貸人は、契約書所定の期間満了に先立って、借地借家法38条4項所定の期間内に、
賃借人に対して、契約が終了する旨の通知を送った。
・これに対して、賃借人が、本件賃貸借契約における定期借家条項は無効である
(定期建物賃貸借契約ではない)と主張して、契約期間満了による明渡しを拒否し、
争った事案
【コメント】
<前提知識>
期間の更新がない定期建物賃貸借契約を有効に締結するためには、
①公正証書による等書面によって契約をしなければならず(借地借家法38条1項)、
②あらかじめ契約更新がなく期間満了により建物賃貸借が終了することについて
記載した書面を交付して説明しなければならない(同法同条2項)
とされています。
これらをみたしていなければ無効になります。
<本判例について>
本判例は、上記要件の②の書面が、契約書本体とは別個独立した書面でなければならない(つまり、契約書自体を事前に確認させていただけでは足りない)ということを示しました。
借地借家法38条において、書面で契約を締結しなければならないとした1項に加えて、あえて書面による説明を要求する2項がおかれた趣旨を以下のとおり判旨しました。
⇒賃借人が契約締結に先立って契約を締結するか否かの意思決定のために
十分な情報を提供することのみならず、
⇒説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する
紛争の発生を未然に防止することにある。
その趣旨を踏まえて、借地借家法38条2項の説明のための書面は、
(1)定期建物賃貸借にかかる契約締結に先立って、
(2)契約書とは別個に、
(3)賃借人に対して交付した上で説明すべき
としました。
そして、この判断については、当該契約の締結に至る経緯、当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった、個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当であるとも判断しました。
つまり、契約書とは別個の書面で、更新がない旨を説明していない限り、どんな事情があっても、賃貸人側からの「賃借人はあらかじめ契約書で読んで更新がないことは分かっていたでしょう!」という言い分が、一切通らないということです。
みなと神戸法律事務所
代表弁護士 向井 大輔